「…お前は間違っている」
私を見るなり盛大に顔をしかめたウォースラは、そのまま吐き捨てるように呟いた。その際、いかにも不愉快だというように、溜め息をつくことも忘れない。普段はあまり表に出てこないが、意外にも彼の嫌味に関するスキルは驚くほど高いので、自分がそれを受け取る立場になったとき、不謹慎だが感心してしまうこともある。今日の場合もそうだった。
「怪我人の見舞いに来た途端それか」
もう文句を言う気になれずに、苦笑しつつも軽口を返す。寝転がったままでは格好がつかないので上半身を起こそうとすると、脇腹に負った傷がズキズキと痛んだ。すると何も言わずにウォースラが近寄って来て、背中を押して私を起こす。顔には相変わらず、不機嫌そうな表情をはりつけていた。
「…あいにくと俺は、いきなり敵陣に突っ込んで行ったあげく、腹に槍を生やして帰ってくるような大馬鹿者にかける優しさを持ち合わせていない」
「……だろうな」
こちらとしては言い返す言葉がないので肯定するしかない。事実だからだ。飛び込んで行ったときは得体の知れない高揚感に酔っていて何とも思わなかったが、今になってみれば何と恐ろしい真似をしたのか、と自分で自分を叱りつけたい気分になる。自分の腹に棒状のものが突き刺さっているのを見たときには、さすがに危ないかもしれないと冷や汗をかいた。
「分かっているなら、これ以上俺を怒らせるようなことを言うな。俺はこれでも我慢してやっているんだ、お前が腹に大穴開けていなかったら、今頃はその憎たらしい顔が変形するまで殴っている」
「……そうだな」
ウォースラは再び重々しい溜め息をついた。そのまま頭痛をこらえるように額に手を当て、目を瞑る。
「お前が何を勘違いしているのかは知らないが、…将軍職というのは、切り込み隊長の別名ではない。戦況を見て指示を出すためのものだ。言うまでもないが、のこのこ出ていって刺されるような真似はしない。してはならない。頭を失った集団は瓦解して、兵が無駄死にする羽目になるからだ」
「……ああ」
「それくらい分かっていると思っていた。買いかぶりだったか?」
「……分かっているつもりだった」
「ならば何故動いた」
それは、…動かなければならないと思ったからだ。結局その直感は大いに間違っていたのだが、ともかく瞬間的にそう思ったのだ。
「どうだろう。とにかく、動かなければと思ったのだ…きっと、下っ端のころを身体が覚えていたんだろうな」
そう言った途端、ウォースラは何度目かの溜め息をついて私を見た。心底軽蔑したような視線が痛い。何度も同じ戦場で戦い、友誼を深めた相手にこういう目をされるのは辛かった。
「…つまり、何だ。お前は、自分が今どんな役割を任せられているのかを失念していた、と…こう言いたいわけか」
「刺されたときに思い出した」
「…刺されなければ思い出せないのか」
「そう言われてみると、俺は相当にとんでもない男のようだな」
なんとなく楽しくなって、すこし頬の筋肉を緩めていると、ウォースラは下を向いて震えだした。さては彼も笑っているのだと思い、しばらくその姿を見ていたのだが、どうも笑っているわけではないらしかった。ウォースラは怒りに震えていたのだ。私はこの歳になって初めて、レトリックでなく実際に怒りによって震える人物を見たことになる。
「……死んでいてもおかしくなかった」
今までに聞いたことのないような低い声が聞こえた。地獄の底から響くような、と形容するのに相応しい声だ。
「死んでいてもおかしくなかったんだ。今そこでだらしなく寝ていられるのは奇跡に近い」
「…分かっている」
「いや、お前は分かっていない。他の誰でもなく、お前が死にかけたという事実を分かっていない。もし死んでいたら、お前の指揮下に入っていた部下たちをどうするつもりだった。どう責任を取るって言うんだ」
「…その時は、その時だ。俺は死んでしまっているから、どうしようもない。お前にでも任せるさ」
その言葉で、ウォースラは飛び上がるようにして私を見た。怒りで顔を赤くしている。睨みつけるようにして見てくるので、顔の凹凸が強調されて鬼の面のようだった。
「俺はそんなの御免だ!お前が死んだ後、お前の尻ぬぐいをするなんてまっぴらだ!」
「ウォースラ、」
落ち着け、と続けたかったが、それは彼の言葉に遮られた。
「自分のことを何だと思っている!」
「……ええと、」
「お前はいつまでもそうやって、ふざけた事ばかり言っていればいい!不愉快だ!こんな所に来た俺が馬鹿だった!」
そう言い終わるや否や、ウォースラは大きな音を立てて立ち上がり、足音を響かせながらいなくなってしまった。私は取り残された形になって、しばらく呆然と、今まで彼がいた空間を見つめるしかない。彼が気の長い人間でないのは知っていたが、こうまで激昂するのを見たのは初めてだった。

何が彼をああまで怒らせたのか、と思い、彼と私の間で行われたやりとりを反芻してみて気づく。もしかして彼は、私を心配して見舞いに来てくれたのかもしれない。『身体を大事に』とでも言って帰るつもりだったのかも。
そう考えると、私はウォースラに大変失礼なことをしたのかもしれない。様子を見に来てみれば、本人は意外とぴんぴんしていて軽口ばかり叩く。あげく、へらへらと笑いだしたりもする。最悪だ。
自分の出した結論に納得して頷いてから、痛む身体を横たえる。そうか、心配してくれたのか。それならば茶化すような事ばかり言って悪かった。礼と謝罪をしなければ。けれど私だって、自分のした事や起こった事について何も思う所がないわけではないのだ。そこの所は分かっていてほしい。

何はともあれ、そのためにはまず傷を癒さなければならない。そして傷が治ったら、ウォースラに会いに行って話をするのだ。私は満足感にひたりながら目を閉じた。


非常に素直でないウォースラと、天然なバッシュ。
…というのを書きたかっただけです。
あまり意味はない。(笑)

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