久しぶりに会ったラーサー様は、なんだか以前より大人びて見えた。一年も経ったから当たり前のことなのだけれど、当たり前なんて生温い言葉じゃ言い表せないくらいに落ちついていた。
わたしがラーサー様と知り合ったのは一年とちょっと前で、一緒にいた時間なんてほんの少しだと思う。だけど、その少しの時間の中でも、ラーサー様の人柄はよく伝わってきた。朗らかで、賢くて、純粋なひと。まっすぐな皇子様。こんなひとが本当に存在しているなんて!
「パンネロさん、お久しぶりです」
ラーサー様が微笑むと、わたしやヴァンも笑いたくなったし、帝国を誰より憎んでいるはずのアーシェさえ、困ったように笑っていた。ラーサー様には、そういう力があった。
…なのに、目の前のひとは、どうしてこんなふうに笑うんだろう。
「ラーサー様…本当に、お久しぶりです」
眉は寂しげに寄せられて、口元だけで笑うラーサー様。こんなひとは知らない。
「手紙を見ました。ヴァンと一緒に、とうとう空賊デビューを果たしたとか。私も嬉しく思います。かつてイヴァリースを共に歩いた仲間が、自分の夢を叶えていくのは素晴らしいことですね」
「は、…はい」
「ガブラス、いえバッシュにも、あの手紙を見せました。彼も大変喜んでいて…これからの励みになると言っていました」
「…お元気ですか?」
「ええ、とても。毎日ジャッジマスターの仕事をこなしていますよ。さすがはダルマスカのローゼンバーグ将軍です」
「そうではなくて、…ラーサー様は」
そう言うと、ラーサー様は困ったような顔をして微笑んだ。どうして困らなくてはならないのですか?どうして、そんなふうに微笑むのですか。無理して笑ってほしいわけじゃない。ラーサー様が笑う姿は好きだけど、こんな姿は見たくない。
「そうですね、忙しくしています。何しろ問題は山積みですからね。でも近い将来には何とかして見せますよ。そうしたら、またここへ来てください」
そんな模範解答を聞きたいわけじゃない。わたしはラーサー様の言葉を聞きたいのに、すべてが横を通り過ぎていく。そんなのは…かなしいことだ。
「わっ、わたしは…ヴァンと二人、小さな飛空艇に乗って、毎日楽しく過ごしています。そう、とても…幸せです」
「……素晴らしいことです」
「ラーサー様も幸せになってください」
ラーサー様の表情が凍る。こんなひとは見たことがない。祝福の言葉を受け取ったのに、どうしてそんな顔をするの。
「ありがとうございます。でも、…僕はひとごろしですから」
そんなの!そんなのってない。自分で決めつけて殻にこもるなんてラーサー様らしくない。いつでもラーサー様は、前向きに事態を打破しようと頑張っていたのに。
「それは、わたしたちだって同じです」
そうよ、わたしたちだって人殺し。あの旅の中で何人も死んだ。でも、死者の想いを決めるのはわたしたちなのに。バルフレアさんだって言っていた。どうせ戻らないなら、自分が良いと思う選択肢を選べばいい。その通りだと思う。…そう思わないと、生者は死者の重みに潰されてしまう。
「そうかも知れませんが、やはり意味が違います。僕は…兄殺しですから」
ああ。あなたのお兄さんを手にかけたのは、わたしたちなのに。ラーサー様は、全てを背負込もうとしている。そんなことはしなくていいのに。前を見て歩いてほしいのに。
「…ラーサー様、」
「幸せになる権利なんてありません。そんなものは、あのとき兄と一緒に燃えつきてしまった。…だから僕は、せめて貴女たちに幸せになってもらいたい」
「そんなふうに、そんなふうに仰らないでください。わたしは、とても悲しい」
かなしい。かなしい。全て終わったのに、どうしてこんなに悲しまなくてはならないのだろう。悲しまなくて済むように、あのとき頑張ったはずなのに。その結果、何人ものひとが亡くなったけど、それも許されるくらい幸せにならないといけないのに。わたしたちだけが幸せでも、あなたが幸せでないと意味がない。
「ああ、泣かないでくださいパンネロさん…貴女は優しいひとですね」
そんなことを言わないでほしい。優しいから泣いてるんじゃない。ただ聞き分けのない子どものように、思い通りにならない現状に癇癪を起こしているだけなんだから。
「そんなことない…です。優しいとか、優しくないとかじゃなくて、もっと単純なことです。わたしは、…ラーサー様が幸せでないと、我慢ならないだけなんです」



そう言うと、ラーサー様は一度驚いたように目を見張ってから、ふわりと明るい笑顔を浮かべてくれた。そして幼子をあやすように頭を撫でて、清潔そうなハンカチを渡してくれる。
「僕はいま、とても嬉しい気分でいっぱいですよ。それで充分です」
にこにこと微笑んでいるラーサー様を見ながら、渡されたハンカチを使って涙を拭いた。どこもかしこもグショグショで、格好悪いことこの上ない。でもラーサー様が楽しそうにしているので、もうどうでもいいやという気分になった。どんなに不細工な顔をしていようと、ラーサー様が笑ってくれるならそれでいい。


ラーサーはヴェインのことを、いつまでも心の隅で覚えていてくれると嬉しいです。


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