埋葬という行為は、祈りにとても似ている。バッシュはそう思った。思ってから、その考えが四十近くの男にしてはあまりにセンチであることに気付き、ひとり赤面して恥ずかしがる。彼らが聞いたらどう思うだろう。
「おーい、バッシュ、こっちこっち」
バッシュから見て、十歩ほど先に進んだあたりの木の下にしゃがみこみ、片手を大きく振り回すようにしてヴァンが呼ぶ。傍らにはパンネロが、やや顔を伏せてたたずんでいるようだ。手に持った小さなものをじっと見ている。
「ここ、ここがいいと思うんだけど」
呼び寄せたバッシュを見上げながら、ヴァンは足元の地面をぽんぽんと叩いてみせた。その仕草に、バッシュは微かな違和感を覚える。まるでヴァンが、殊更に自分の幼さを強調しているかのように見えたのだ。
「ああ、…そうだな」
そう言って、自分もヴァンのそばへ行き、そこにしゃがみこむ。すこし見下ろすような格好になった。
「なんかさあ、不思議な感じがする。こんなの埋めてるなんて、他の化け物はほったらかしなのに」
「…そうかもしれないな」
「でも、だからって全部埋めてたら身動きとれなくなるよな。どこかで線引きしとかないと」
「…そうだな」
「みんなも、こういうこと考えたりするのかな」
「考えているかもしれない」
答えながら、自問する。自分はどうだろう。なんとなく、それは考えてはいけない事のような気がする。考えたが最後、引き返せないところまで引きずられるような。
「……俺、さ。兄さんが死んだとき、気づいたんだよな」
黙々と土を掘っていたヴァンが、やがて意を決したようにつぶやいた。いつからか、ヴァンはバッシュの前で兄の話をすることを意識的に避けるようになっていたので、再びその話題を会話に上らせることに抵抗があったらしい。しかしバッシュにしてみれば、兄の話をするヴァンを見るのは嫌ではなかった。責めるような視線を感じることもあったが、それは当然のことだと思っている。
「何を、と聞いてもいいだろうか」
「うん。アンタならそう言うと思った、…言わせようと思ってた」
緩々と土に触れていた手を止めて、ヴァンが顔を上げる。それまで黙って見ていたパンネロが、ヴァン、と咎めるような声で呟いた。それを聞いたバッシュが、いいから、と言ってヴァンに先を促す。
パンネロは少しの間ふたりを交互にながめて、やがて溜め息をついて口を閉じた。バッシュはパンネロに軽く謝るように、ちいさく肩をすくめて目くばせをする。
「気付いたんだ。兄さんが死んでも、世界は問題なく動きつづけるってことに」
ヴァンがパンネロの腕を引っ張って、パンネロの手の中に納まっている小さなものを地面に下ろす。かさりと乾いた音を立てて、それは地べたに落ちた。
「俺さ、何でだか分からないけど、兄さんが死んだら世界は真っ暗になるような気がしてた。でも違うんだよな、別にそんなことなくて、みんな普通にしてるし」
地面に置かれた小さなものの上に、そっと土を被せていく。だんだんと小さなものの姿は見えなくなり、やがて少し盛り上がった跡だけを残して完全に消えた。まるで何事も無かったかのように。
「で、そのとき思った。ああ、誰が居なくなろうと世界は困ったりしないんだなって。困るのは、死んだ奴のことを良く覚えてる奴だけだ。死んだ奴が、そいつのなかでまだ生きてるから混乱する」
ヴァンは喋りながら、仕上げとばかりに、真新しい小さな土饅頭の上をぽんぽんと叩く。
「アンタは…兄さんのことを、レックスのことを、覚えていてくれてるか?」
そう言って顔を上げたヴァンの瞳は、いつにないほど真剣だった。しかしそこに涙は、ない。
バッシュはそれを受けて、しばらく絶句した。
「…私、は」
「わたしは?」
「覚えている、…彼のことを憶えている。そしてこれからも忘れないだろう」
「…………」
「君も、そうだろう?」
ヴァンはその言葉を聞くと、静かに立ち上がって踵を返し、すたすたとどこかへ歩き出した。それを見たパンネロが引き止めるが、聞こえていないかのように無視して歩きつづける。
あきらめたように溜め息をついたパンネロが、バッシュの方を向いてぺこりと小さくお辞儀をした。ヴァンを追いかけて駈けていくパンネロの後ろ姿をしばらく眺めたあと、バッシュは空を仰いだ。今日は空が高い。手を伸ばせば何もかも突き抜けて──もしそんなモノがあるのなら──天国に届いてしまいそうだ。今までに出会ったたくさんの、彼や彼女がいるかもしれない場所に。
私は覚えている、とバッシュがつぶやいた。私はひとしく誰をも忘れない。それとも彼は、全ての望みを捨てよと書かれた門の内側で、私を待ち構えているのだろうか。
センチメンタルドリーマーな男共。
秋はひとを、にわか詩人にするようです。
でも女の子は意外と現実的。ブラウザを閉じてお戻りください