首をひねって、背後に位置する窓から空を見上げると、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。見たところ日差しは強いが、気温はあまり高くない。絶好の散歩日和と言えるだろう。
ああ、こんな日に外へ出て、チョコボの羽根の手入れでもしてやって、そのまま眠り込んだりしたら、どんなに心地よいことだろう。私は一時、目を閉じてそんなことを夢想する。しかし手元に目線を下ろすと、そこには山のような書類が堆積していて、彼らはじっと私の署名を待っている。途端に自分の顔がげっそりとするのを感じたが、放っておくわけにもいかないので、機械的に手を動かしてサインをした。本来なら内容に目を通すべきだが、我が隊は部下たちが優秀なので、私のところへ書類が辿りつく時点で、たいがいの問題は解決している。つまり、私は署名のみに集中できるというわけだ。それだけでも有り難いと思わねば。
「一体、俺にどうしろと言うんだ。奴らは俺を買いかぶりすぎているのか、馬鹿にしすぎているのか、どっちだ。はっきりしろ」
「そうだな」
執務机の前に置かれたソファから、不機嫌な男の声がした。ウォースラだ。ウォースラはややこしい仕事を押しつけられたりするたびに、このソファに沈んで繰り言のような愚痴を垂れ流していく。
私が思うに、ウォースラは全ての仕事を一人でこなそうとするから面倒くさいことになるのであって、私のように部下に仕事を手伝ってもらえば楽になるのだ。しかし以前それを指摘したところ、俺は壁に向かって話しているんだから煩いことを言うな!と怒鳴られたので、以来適当な返事だけをすることにしている。
「大体、こんなことになるまで放っておくなんて、正気の沙汰とは思えない!」
ウォースラがそう言って、だん!と足を踏み鳴らすと、執務室のドアの向こうで、副官が何かを取り落とした音が聞こえた。彼はウォースラがここに来るたびに何かしら失敗をして、それを気に病んでいる。おそらく、ウォースラが初めて私の執務室の壁と喋りに来た際に、うっかり茶を出してしまって叱られたことがトラウマになっているのだろう。ウォースラはあくまでも構わないでいてほしいらしい。
だったら自室に籠っていればいいとは思うし、副官にも気の毒なことだが、ウォースラを追い返すのは意外と骨の折れる作業なので、私は見て見ぬふりを続けている。
「そうだな」
手を動かしつづけながら、おざなりな返事をする。手元の書類は終わりが見えてきたが、そろそろペンを握る手が痛くなってきた。しかしこれが終われば自由の身、机からもウォースラからも開放されて外へ出られる。もう少しの辛抱だ。
「しかもそれを他人に押しつけるとは!奴らは確実におかしい、こんなことが許されていい訳がない、なぜ誰も指摘しない!」
「そうだな」
その後しばらく、ガリガリとペンが紙を引っ掻く音が室内に響き続けて、私はそれを訝しく思った。ウォースラは壁と喋るのを止めたのだろうか。
目線を上げると、眉間のしわを普段より深く刻んだウォースラが、こちらをじっと見ている所にぶつかった。私はぱちぱちと瞬きをしたが、ウォースラはそれさえせずにこちらを見ている。何も言う気がなさそうだったので、手元に視線を戻して作業を再開しようとしたが、同時に声が追ってきて、それは不発に終わった。
「…おい、何度同じ返答をすれば気が済むんだ、話を聞いていなかっただろう」
余計な事を言うなと言ったのはお前だ、と言い返したい気分になったが、それをすると厄介なことになりそうだったので、聞いていた、と答えるのみにとどめた。
するとウォースラが机の前までやってきて、それが人の話を聞く態度かと詰め寄ってくる。溜め息をこらえながら机に目をやると、そこではウォースラの手によってぐしゃぐしゃになった最後の書類が無残な姿を晒していた。
ああ、これが終われば外に出られるというのに。大体、壁に話しているから無視しろと言ったのはお前じゃないか。一体何がしたいんだ。それはこっちの台詞だ、ウォースラ。
とうとう堪えきれなくなって溜め息を吐き出すと、急に何かがすとんと腑におちた感覚がした。なんだそんなことか、と思わず口元が笑みを形作りはじめたのを感じる。ああそうか、ウォースラ、お前は。
「…わかっているさ」
そう言って顔を上げれば、不機嫌を体現したようなウォースラと目が合って、その途端ウォースラは眉間のしわをより深くする。そして子供が見たら泣き出しそうな形相のまま、わかればいい!とか何とか言うと、きびすを返して執務室から出て行った。ウォースラを追い返すのがこんなに簡単なことだったとは。私は微妙な笑顔のまま、ゆっくりと手元に視線を落として、最後の書類にサインをした。
な に こ の 少 女 漫 画
そして、いくらなんでも書類にサインするだけは
まずいと思いますローゼンバーグ将軍。
きっと恐ろしいほどにデスクワーク向きでないのでしょうね。ブラウザを閉じてお戻りください