じっとりと汗を纏わりつかせた肌の上に、暴力的と言っても過言ではない日の光が降り注がれて、まるで生きながら火あぶりにされているような錯覚に陥った。そのちりちりとした感覚をいまいましく思いながら、ゆっくりと一歩ずつ前へ進んでいく。普段の訓練では何とも思わない、砂漠特有の細かな砂が絡んで、絶望的なほどに足が重かった。それでも立ち止まるわけにはいかない。引きずるようにして、もはや二本の棒と化した足を前方へ動かす。ふと後ろを振り返れば、続く者たちも皆似たような状態だった。誰もが疲れ切っている。
「王都は近いぞ。…もう少し、頑張ってくれ」
私の発した言葉を受けて、何名かの者がこくりと頷いた。それを確認して、私は微笑んだつもりになる。おそらく顔の筋肉が歪んで、よくわからない醜悪な表情を浮かべているのだろうが、気持ちとしては笑ったつもりだった。相手もそのあたりを分かってくれているのだろう、やはり顔をぎゅっと引きつらせて微笑む。
誰もが、王都は近くなんてないことを知っていた。けれどもそれを認識した途端、一歩も動けなくなることが本能的に分かるのだ。だから見え透いた嘘にも乗る。私達は、いわば共犯だった。
そして再び前を向き、無言のまま枷を付けられたように重い足を引きずって歩く。いくら進んでも光景が変化する事はなく、砂の流れる音だけが辺りを支配していた。すべてが繰り返される世界の中で、思考が鈍くなっていくのが手に取るように分かる。いま足が動いているのは自分の意志によってではなく、身体が繰り返しの世界に慣れきって、惰性で動きを反復させているだけなのだ。
そのとき、背後で誰かが倒れ込む音が聞こえた。しかし驚きは感じない。それは私だけでなく、周りにいた誰もがそうだっただろう。容易に想像のできることだった。今まで何も無かったのが奇跡的だっただけだ。
「将軍」
「…動けるか」
むしろ、あまりに感情の起伏のない自分の声に驚きを感じたくらいだった。そんな分かり切ったことを聞いてどうする。これは相手から切り出したことだという事実がほしいのか。熱い砂に倒れ伏して動けない部下を見下ろしているというのに、まだ保身を考える余裕があるのか。
「将軍、自分はもう動けません。…置いて行ってください」
予想通りの言葉が聞こえて、やはり私は何も感じなかった。周りの部下たちも何も言わない。それは、この二三ヶ月であまりにお馴染みの光景となっていたからだ。今回はもしや、と思ったが、やはりそれは繰り返された。反復されつづけた物事は、惰性という魔力で人の感情を奪う。次に私が言うべき言葉も既に決まっている。部下たちも言葉を待っている。
「…水が、ほしいか」
手にした革袋を目の前にかざしてやりながら問うと、倒れた部下は瞳をぎらつかせて、ほしいと言った。しかし次の瞬間にはハッとした表情になり、でもそれは将軍の、とためらいを見せる。これは新しい反応だと、焼けつくような暑さにやられた頭の片隅で思った。
「構わない。ほしいなら飲め」
そう言って革袋を手渡すと、ごくごくと喉を鳴らして水を飲んだ。飲み終わると、深く息をはいて落ち着いた様子になる。その様子を見るたびに私は思う。この男は生きる意欲に満ちている。まだ動ける。私が肩を貸してやり、引きずって歩いてやれば、王都に着いた後はどうにかなるだろう。事実、そうやって帰ってきた者を知っている。しかし、肩を貸した将はその後すぐに倒れ、しばらく出陣することができなかった。そしてダルマスカに多大な損害を出すことになった。だから私はそれをしない。
「…ただ置いて行かれるのが良いか、それともここで楽になるか」
分かっている。水を与えるのも、選択肢を与えるのも、すべては私の自己満足だ。もしかするとそれより質が悪いかもしれない。できることはしたと、そう思いたいがためにやっていることだ。この男のためではない。私のためだ。本当にこの男を思うなら、すべきことは一つに決まっているのだ。
「…楽に、なりたい」
「分かった」
男の胸に剣をかざす。大きな剣の影に入って、男は思わずといった様子で溜め息をもらした。その心地よさそうな響きを聞きながら、私は剣を振り下ろす。悪夢の名を冠した剣は、一息に男の命を奪うだろう。
突き刺さった剣を引き抜いて、こびり付いた血を砂でぬぐう。そうして周りを見回せば、部下たちは既に歩き出す準備を調えていた。二三ヶ月前には咎めるような目を向けてきた彼らも、今では何も言わない。それが楽だとも思うし、苦痛だとも思う。重たい足を引きずって、私達はふたたび前進をはじめた。王都は近い。そう自分に言い聞かせながら、ひたすらに足を動かしつづける。
ふと空を見上げると、そこには変らず太陽が鎮座ましまして、容赦なく地上を照らし続けていた。それを見ながら私は思う。お前ならあの男を連れ帰ってくるのだろう。そしていつぞやのように倒れ込んで、それでもへらへらと笑うのだろう。人の気も知らないで。…ああ、バッシュ、私はいま、無性にお前に会いたい。
もはやパラレルと言い切ったほうが(二回目)
最近あまりに暑くて脳味噌が湧いたのかもしれない。
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